トニーと呼ばれていた頃のDaddyのお話です| Good Old Days | Tony and Joey | Mission Completed | The Scene Changes |

朝のコーヒーはハーシーのマグカップで!パーシング・ハイツ(市ヶ谷にある駐留米軍の兵舎)の中に若者が住み込みで働くようになってから数か月が過ぎた。
もともと骨格はがっしりしていたので、食生活が変わっただけで筋肉質の身体がバランスよく完成されてきた。
連隊対抗のボクシング大会に誘われたのは休み明けの月曜日だった。
テキサス出身のジャックから話があると呼ばれ、食堂に行くと5人のGIがお行儀悪く足を組んで彼を待ち受けていた。


「なあ、トニーちょっと聞きたいんだが、君のウエイトはどれくらいだ?」一同の中では年上のジャックが若者を値踏みするように質問してきた。
「そうですね、今現在は53kgくらいだと思うけど」若者はいぶかしげな顔で答えた。
すると一同は立ち上がって若者を取り囲み口笛を吹きながら大騒ぎを始めた。
「OK!これで第8連隊の奴等に一泡吹かしてやれるぜ!」とジャック。
「トニーだったら間違いないだろう、あいつらには強力なバンタムクラスが居ないからな」
メディカルのクリスもうれしそうに大騒ぎだ。


「いったいどうしたんです?」若者には事情がわからない。不思議そうな顔で大騒ぎを眺めていると、ジャックがうなずいて説明を始めた。説明によると事情はこういうことだ。


麻布に駐留している第8連隊の奴等とパーシング・ハイツの選抜メンバーでボクシングの対抗戦をやることになったのだが、バンタムからミドルまでの5クラスの中で軽量級のバンタムだけは選手がおらず人選で悩んでいた。
トニーだったらウエイトの問題がないので代表でやってくれるならバンタムクラスはもらったような物だということらしい。

キャプテン・ブラック「ところでトニー、ボクシングの経験はあるのかね?普段の暴れっぷりだと経験がありそうに見えるが?」ジャックは経験があると確信しているらしい。
「自己流ですけど喧嘩は得意ですよ」若者は自信ありげに答えた。


「では君がバンタムクラスの代表で決定だ。試合は今週末の土曜日だから、今日からトレーニングに入ってくれ。ちゃんと賞金も用意するし、セコンドは私がやるから安心してほしい。それと注意して欲しいのだが、君は日系アメリカ人GIトニーだということにしておくからな」ジャックは若者にウインクした。


その日の夜からジャックがコーチとなって基本的な指導が行われたが、簡単な指導だけで若者の動きは変わってきた。若者はベタ足のファイターだったのでダッキングとウエービングを覚えただけで充分だったのだ。トレーニングは3日だけで終了し、残りの2日は気の持ち方などメンタルトレーニングだけだった。


試合の結果はあっけないものだった。若者は相手を1ラウンドでノックアウトし、次のフェザーとライトのクラスでパーシング・ハイツのメンバーが勝ったため、勝負はそこで決まってしまった。ウエルターでクリスが負けたが最後のミドルも勝ち、4対1の結果だった。

Tony and Joeyへその夜から若者はパーシング・ハイツのメンバーとして認められ、良い部屋と車を与えられた。その年は雨が多かったので、車が自由に使えるようになっただけで若者は充分満足だったのだが、USドルで賞金を貰ったときには声が出ないほど驚いた。
若者の顔を見て、大会のメンバーたちが大笑いしたのは言うまでもない。のどかな時代の話である。

Copyright © 2005-2011 Aloha Factory All Rights Reserved.
info@alohafactory.com