駐留米軍とDaddyの交流を描きました| Good Old Days | Tony Who? | Mission Completed | The Scene Changes |

Daddyのトランク駐留米軍の嘱託となって働くようになって1年後、ボクシング大会の代表で戦ったことにより、キャンプ内でジャップGIとして名前が売れてしまった若者はアメリカ人の考え方が少しずつ理解できるようになってきた。
出身にこだわらず能力、人格によって個人を評価することだ。
日本人のメンタリティも捨てたものではないが、陽気なGIたちを見ていると、自分にはアメリカ的な思考の方が向いているような気がする。


そんなある日のこと、先日の対戦相手とパーティで一緒になってしまった。若者はリーダーのジャックの顔をみたが、彼はニャッと笑っただけで何も言わない。
若者はリターンマッチの覚悟を決めたが、他のメンバーたちは平気な顔だ。
すると、相手チームのメンバーたちがこちらに歩いて握手を求めてきた。若者の対戦相手も照れくさそうな顔で手を差し伸べている。若者はクールな表情で応じたが、内心は驚いていた。


「俺はジャップGIにノックアウトされたことで有名になってしまったよ、今度一緒に練習して欲しいんだが」小柄な対戦相手はジョーイと名乗った。
「単なる偶然だよジョーイ、今度は私が負ける番さ」それは若者の本音だ。


二人を取り囲んでみんなが手を叩いている。
試合の結果を根に持つようなことは無いようで、相手のジョーイだけは頭をボリボリ掻いてばつが悪そうだ。


「なあトニー、今度君のところに遊びに行ってもいいかい?」
「もちろんだよジョーイ、いつでも大歓迎さ」若者も笑顔で応じた。


次の週末にジョーイがジープに荷物を満載して若者を訪ねてきた。
妙に表情が硬く、挨拶もそこそこに急いで荷物を降ろしはじめた。


「なあジョーイ、いったいこの荷物はどうしたんだ?」
「ああ、恥ずかしい話だが「不名誉除隊」を喰っちまった」
「何でだ、俺に負けたからか?」
「バカなことを言うな、物資の横流しがバレたんだ」
「金に換えられるものは処分したが、俺は見ての通りチビだし、着る物だけは換金できない、どうせならトニー、お前に着てもらいたいんだよ」
ジョーイの表情は真剣だ。

レイバンウエイファラー&シューター「上手くいけば、除隊後に民間ビザで帰ってこれる、そのときはまた遊んでほしい」
若者はジョーイの顔を見つめてうなずいた。
「なあ、トニーこの荷物の中で、気に入らないものがあったら勝手に処分して欲しいが、このトランクだけは最後まで使って欲しいんだ」
ジョーイの手に黒い大型のトランクが握られている。若者は小さくうなずいた。
ジョーイは手早く荷物を降ろし終わると、ジープに飛び乗った。


「ヘイ!トニー、お前の右フックは相当なもんだぜ、ブロンクスの不良を一発で眠らせたんだからな」
ジョーイはジープの中から手を振った。若者も検問まで走って、ジョーイに手を振った。
「ヘイ!ジョーイ、待っているからな」
若者の声が冬の木枯らしの中で響いた。若者はジョーイの帰りを半年待ったが、彼がブロンクスから帰ってくることは無かった。


ジョーイのプレゼントの中で若者が気に入ったのはウールのチェスターコートとハットだった。
ジョーイはニューヨーク下町の不良でお洒落な男だった。名前から推測するとイタリア系だったのだろう。
若者は自分ひとりで着るには多すぎる衣料を従兄弟の録ちゃんにプレゼントした。

Mission Completedへ録次郎は目黒の五本木の遊び人で、若者とは親しい仲間同士だった。
録ちゃんと一緒に撮影した写真は表に出ているものだ。
ジョーイのトランクは約束通り、今でもファクトリーにあるし、そして実際に使われている。

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