2005年冬、冷たく乾いた風が海から流れてきていた。
ニヤけた中年オヤジがレイバンをかけ、鎌倉のオープンカフェでタバコを吸っている。
鎌倉の参道は休日の光を浴びてキラキラ輝いているのだが、この景色は中年オヤジには不似合いだ。
でも、この男には何を言っても無駄なんだよな(笑)
やがてオヤジの携帯にshinからのメールが着信した。
駐車場から出たshinと嫁の2人が参道を歩いてくる姿がゆっく視界に入ってくる。
さて、お茶を飲んだら冬の湘南を撮影に出かけよう。
アロハシャツのネットショップを始めてから1年過ぎ、最近になって、やっと湘南まで撮影に出かける余裕が出来た。
私たちが湘南で遊んでいた時期は1985年くらいまでだから、もう20年前の話になる。
昔の湘南はとっくに姿を消しているけれど、記憶の中の湘南は今でもヴィヴィッドに輝いているし、当時とは別のセンスでリファインされている。
今日は車の撮影もするつもりだから、わざわざガス喰いの2台でつるんでやってきたのだ。
マスタングとW124・・・イメージがまったく違うけどそんないい加減な組み合わせも湘南に似合うじゃないか(笑)
鎌倉の海は青く澄みきっている。
風が強いのだが、冬の海には珍しく、うねりが小さく海面は平らに凪いでいる。
まだ、時間が早いのでウィンドやディンギーのセールはまだ見えない。
みんな出艇前にお茶を飲んでくつろいでいるのだろう。
かつてはこの海面をウィンドで走り回った事も、今では遠い追憶の世界だ。
当時の笑い話もあるし、ホロ苦い別れの話もある・・・
それでも、2005年の今、この海にアロハシャツを着て立っているのだから、結果として今までやってきた事は回り道ではなかったのだ。
この後、私たちには輝ける未来だけしか残されていないんだからさ(笑)
由比ケ浜で撮影をしたあと、稲村ケ崎の駐車場で撮影をした。
今回は車がメインだ。マスタングとW124が2台並んで冬の陽光を浴びている。
都内に居るときよりも気持ちよさそうな顔をしているね(笑)
動物が陽だまりの中で寝転んでいるような風景だ。
グラマスなスタイルのマスタングと実用的なワゴン・・・対照的な2台だが、こうやって見ると仲良く見えるな。
通常走行時の姿は2台とも重い走りのイメージだが、本当の顔が見えるのは高速走行時なんだね。
今のやさしい顔は湘南だけで見せる例外的なものなのだろう。
腰越の撮影は江ノ島から撮る事にして、2台は江ノ島大橋を渡った。
懐かしい風景はまったく変わっていないけれど、駐車場の車は外車とRVが増えたね。
江ノ島から腰越を眺めると海面をセールが走っている。今日は波が無いのでサーファーは手持ち無沙汰だろう。
初期型のゴルフの屋根にボードを乗せて遊びにきていた頃はCar Topperの全盛期だった。
今でもみんなサーフボードを屋根に積んでやってくるのだろうね。
江ノ島から134号を下って辻堂まで、昔は自転車で走った道だ。
今は綺麗に舗装されているが、当時はボコボコと穴が空いていた記憶が残っている。
昔の黒くて重い業務用自転車を漕いでこの区間を走ったんだよな・・・
浜須賀を藤沢方面に右折すると廃業したホテルが見える。
その先の住宅街が子供の頃に夏を過ごした懐かしい追憶のSurf Cityだ。
母の実家に車を停めると、玄関を出てきたのは従兄弟の勲だった。
「今日はすごい車で来たじゃん、この寒いのにアロハなんか着て!」
彼は日に焼けた顔をほころばせた。
そろそろ中年って年齢にさしかかっているが、彼はいまだに現役のサーファーだ。
海辺の住宅街にもマンションが増えたが、変わらない景色も残っている。
イノセントなロックンロールが似合いそうな変わらない景色を見かけると35年前の自分に戻ってしまったような錯覚を覚える。
そうだよ、この景色が今でも記憶の中で光り輝いているんだ・・・
撮影の帰りに横浜タイクーンさんで食事をしたが、このお店との付き合いもずいぶん長くなってきた。
そう言えばアロハ・パーティをここで開催したんだ・・・
支配人の宇賀さんは私たちをいつも暖かく迎えてくれるので、湘南の帰りに寄ってしまうんだよね。
パーティの時はお世話になりました(笑)
横浜まで戻ってくるとタイムスリップの世界から一気に現実に引き戻されてしまうけれども、湘南にまつわる思い出は新たに生まれつつあります。
そして、何年か後に2005年の記憶を甦らせて横浜に遊びに来るようになっているかも知れませんね。
1970年、私が10歳の頃から始まったお話もこれで最後になります。
湘南にまつわる記憶をたどってこのシリーズを書いてきましたが、35年の間には私たち自身の身の上にもいろいろなことが起こりました。いろいろな出来事に遭遇した結果、私たちはアロハファクトリーを立ち上げる事になったのですから、過去の経験は有意義なものであったのでしょう。
ウィンドサーフィンをやめてからは、時々ドライブに来るだけになっていましたが、アロハファクトリーの立ち上げと同時に湘南を訪れることが多くなりました。
そんな私たちを甘い追憶の世界に案内してくれるのは、湘南を流れるスローな時間とさわやかな潮の香りなのです。
少年だった私を鍛え、若い頃の私を教え、中年になった私を癒し・・・
湘南の海はいつでも私を優しく受け入れてくれます。
私が老人になっても受け入れてくれることでしょう。
そのときはボートでも漕いで魚釣りをしながら、波や風と穏やかに会話が出来るようになっているかも知れません。
正直のところ記憶が不確かな部分もありますから、文中にあまり正確でない表現があるかもしれません。
間違いがありましたら訂正しますのでにてお知らせください。
薄謝進呈させていただくと共に、いろいろ教えていただきたいこともあります。
ご覧になっていただいたみなさん本当にありがとうございました。